芥川賞受賞作家である羽田圭介さんの作品「御不浄バトル」のレビューというか個人的な感想です。
ブラック企業が舞台の小説
主人公はブラック企業の事務職である男性社員です。この会社は過酷な労働と精神的な負担で営業部員は半年で会社を辞めていくような会社です。商材もかなり悪徳。
主人公はそんなブラック企業に勤めていながらも、営業職員ではなく事務職だったためか、無難に仕事をこなし2年目になります。やはり一番過酷なのは営業で、お勧めできないような高価な商材を売らなくてはならないですし、売れなかったらキツい圧力がかけられます。
事務職で無難に仕事をこなしていた主人公の男性ですが、ひょんなことからそんな無難な日常が崩れていくのです。
無難に過ごしていた日常が崩れた主人公の男性。この男性はこのブラック企業を辞めることを考え始めます。そして、辞めるのであれば自分が有利になるような辞め方で。一社員とブラック企業の戦いが描かれていきます。
駅や会社のトイレの個室が憩いの場
こんなブラック企業に勤めているので、主人公のストレスも相当なもの。そんな主人公の憩いの場がトイレの個室なのです。駅や会社の。そして、このトイレの個室を巡ってのバトルもあります。
見知らぬメンバーとの個室の奪い合い。特に朝のトイレの争奪戦の描写が面白い。休憩中などにはこのトイレの個室で主人公の男性は色々なことをします。「えっ!?そこまでやるの?」みたいな事まで。
ただ、トイレの個室が憩いの場というのはかなりわかります。この作中の会社ほどのブラック企業ではないにしろ、会社にいると周囲になんとなく気を遣ってしまったり周囲のプレッシャーの感じたりすることもあります。そんな会社で1人になれる唯一の場所かもしれません。
リアリティとユーモラスに溢れている
細かい心理描写がすごくてリアリティに溢れています。例えば、ブラック企業はネットでもかなり叩かれています。詐欺などと。主人公の男性は、「自分はこの企業に完全に染まっている訳ではない」と自分の罪悪感を薄めるために様々なことをするのですが、その描写がまた面白い。
また、朝のトレイの争いなどの細かい描写はかなりリアリティに溢れていて、なんか日常的にもこういうこと起こっていそうとも思えます。
リアリティに溢れた部分とは対照的に、「えっ!?そんなことあるの?」みたいなことも起こったりします。このブラック企業に勤めている人たちは狂っているのでしょう。また、こんなブラック企業で生き残れるのはある意味狂っている人たちなのかもしれません。でもそんなところがユーモラスに描かれているのが、この作品の面白いところとも言えそうです。
ブラック企業とそこに勤務する一社員のバトルを描いた作品はかなり面白かったです。さすが芥川賞受賞作家と言えます。
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